鴻巣の家

 今日の世界に人が住むとき、どのように住むことができるだろうか。住居の設計をお願い頂いたS氏は、考える個人として住み、夫婦と子供として住み、親家族とともに住み、土地の住人として住んでいたと思う。それぞれの住み方はすべて自然で堅苦しくないもので、あるところから居心地の悪い思いをして緊張するようなことは望んでいなかったように思われた。望ましい住居は、個人の殻のような個室でなく、家族団欒を差し向けるリビング・ダイニングでもなく、家庭を囲うnLDK住宅でもなく、交流を強いるコモン・スペースでもないと思われる。個人であり、核家族であり、拡大家族であり、土地の住人であることを同時に可能にする住居があれば、どんなに自由な日常を送ることができるだろうか。建築の統合的な力でそれを可能にできないだろうか。

 S氏の住む土地は代々住み継がれた農地だったが、戦後から70年台半ばにかけての農業生産の減退と住宅地の郊外化に伴い、S氏の土地においても畑は生産緑地に転じた後に営農を縮小し、宅地内に住居・車庫・応接用の離れを建て増していった。母屋と畑からなる農業生産のための土地は、いつしか建物の密集した宅地と生産をしない生産緑地に変わっていった。混んで建つ家々は他所の住宅同様の内向的なつくりであり、同じ土地に建つにもかかわらず互いにあまり関係のない家々であるように見えた。しかし、同じ土地にS氏夫婦の家族と親夫婦が住むことや、家族のための住居や車庫が集まっていることは、土地に大きな家族が住むことができる可能性がある。新しい住居の配置は、一般的な北住居+南庭の定石にこだわらず、西側に住居を寄せて東側に庭をつくり、この庭を街路から始まり生産緑地を貫通するアプローチの軸に重ねて、住居・車庫・離れで囲む構成にした。庭はS氏家族と親夫婦と来客が往来し代わる代わる使う場所となる。

 新しい住居の各部分は、生活に必要なプライバシーを備えながら庭と緊密な関係をもつようにした。すなわち、寝室などの個室は必要なプライバシーに応じて隣接する質やリビングと距離を置きつつ、リビングを介して庭が見える位置にある。また、床の高さの異なる各室は螺旋状に積み上がっている。つまり、半地下の主寝室、1階レベルのリビング・ダイニングと庭、小上がりの和室、中2階の勉強室、2階の子供室と庭を臨むテラスがレベルを変えながら隣接していて、各室どうしの独立と連続を保っている。
 1階ではアプローチの東庭、玄関、納戸家事室、風呂、裏庭の物干し場が並んでいて、子供の膨大な洗濯物を捌く重要な動線をなしている。服の収納は納戸家事室に集約していて、わざわざ個室に個人の服を持って帰ることはほとんどしないで済む。帰宅・入浴・洗濯・物干しの場を集約することで、住居最大の仕事のひとつを最適化した。
 住居と庭の間には、奥行き2mのロッジアを設けた。ロッジアは午前中の強い日差しを和らげ、雨の時にリビングの窓を開けられるようにし、庭での大人子供の遊びの休憩所となり、住居のための大きな玄関であり、親住居への歩廊である。ロッジアの下には基礎を張り出したパブリック・ベンチを設けて誰もが腰掛けられるようにして、コンクリートブロックの舗装をアプローチの軸に沿って張り伸ばした。庭には既にある外便所の他、暖炉のための薪小屋が塀をなし、ボラードを兼ねたスツールが立ち、水栓や屋外テーブルを設ける。
 リビングは個室の暮らし・生活動線・庭の自然が出会うハブの空間となる。ここは家全体の雰囲気を感じる室内であり、土地全体の雰囲気を感じる庭の部分である。朝は東庭からの光が入り、昼は南の高窓が床を明るくし、夕方は西の個室を通して光が入る。雨の日は庭に滴る水を眺め、夏の日は東西南北の窓を開け放ってシーリングファンを回し、冬の日は暖炉を焚いて家中を温める。

 住居を支える構造は、無理のない木造を目指した。川が近く田畑の広がる土地のため、1.5階程度の軽くフットプリントの広い木造建物を意識してプラン検討をしている。木造住宅の割には内壁の少ない空間構成なので、外壁と屋根を合板で固めて地震力を地盤まで伝達し、スパンの大きな建物中央を柱梁で支える構造形式とした。水平の梁はロッジアの自身荷重と東外壁の風荷重を受けて、西側のボックスに荷重を流すとともに、独立した長柱の座屈を止めている。唯一荷重の大きな1.5階と2階の床はスパンを小さくプランニングすることで梁せいを抑え、住居の階高を最小限におさえて生活空間の一体感をもたらした。これらにより柱径は120以下、床梁せいは180以下、屋根梁せいは270以下となり、材積が少なく安全性の高い合理的な構造とした。

 間仕切りは真壁のおさまりとして、生活空間を支える軸組を見せた。外壁の内側は木毛セメント板として、軸組の力強さと壁のスケール感に応じた荒い面とした。木毛板は荒く多孔質の表面であるから、ワンルーム的な住居で起こる様々な音を吸収し、窓から入る光を拾い取る。
住居の建具は玄関も含めてほとんどを引き戸とした。引き戸は開けっ放しにできるため、空間の開放性と一体感が大変高まる。個室を仕切る建具は軸組に対してとってつけたようにレールを付け、見た目の軽い間仕切りとした。

 夫・妻・子供といった個人として、その集まりである家族として、親夫婦と住む大きな家族として、土地の住人として、無理のない自由な感覚で住むことのできる住居になればと思う。

設計 IN STUDIO(小笹泉、奥村直子)
監理 IN STUDIO(小笹泉、奥村直子)、福原信一
構造設計監理 Studio Stem(中島幹雄)
施工 シグマ建設
所在地 埼玉県鴻巣市
建築面積 104.87m2
延床面積 110.80m2
階数 地上2階
構造 在来木造
設計期間 2017.1-2017.8
施工期間 2018.1-2018.7
写真 小笹泉