下馬の部屋

 都内の一室を借りて住む友人が、部屋を変えたいとの思いがあるということで、改装設計を始めた。東京に住む同世代からしてみれば広い部屋だが、彼の暮らし方を見ると広い部屋が散漫に使われている。キッチン、ベッド、机、本棚、照明、窓が散在するなかに、彼は生活を定着できないでいるようだった。彼の生活を調べると、食事を作る場所と食べる場所、集中する場所、リラックスする場所があれば足りると分かった。
 課題はコストであって、何年住むかわからない仮住まいなので、10万円でやってみてほしいとのことだった。坪単価にして1万円。限られた資材で最大の効果を果たすことが設計の目標になった。

 生活行動を整理するために、大きな部屋に腰壁を立て、プランをふたつに分ける。腰壁の一方を腰掛ける場所にすると、それはハイバックベンチとなる。ベンチの前に一人用には大きな机をセットすると、そこは食事の場所となり、向かい側は作業の場所となる。ハイバックベンチの構造のために背に厚みを与えると、そこは棚になる。もともとあった棚と家電の位置を組み替えて、台所のプランを成り立たせる。


 つくるべきものはハイバックベンチと大きなテーブルとなる。ベンチの構法は、コストの条件からもっとも安価なOSBの構造とした。3方向に板を組み合わせ、人間からかかる3方向の荷重を受けられる構成とする。座と背を座るのに最適な角度にして、触れる部分だけは布で覆った。大きな机は、スチールの脚を置き、OSBの厚板でスパンを飛ばし、表面にアクリルを敷いた。いずれも先に加工しておいたパーツを部屋の中で組み合わせるだけでできる。その気になれば、バラして次の引越し先に持っていける。


 ベンチとテーブルあわせて4.8万円に抑えた。限られた予算で最大限の効果をあげようとすると、すべての部材の役割は明快になる。OSBをはじめすべての部材はプランであり、構造であり、仕上げであり、行動を根拠とした生活のための場所となる。

 あとは、自由な姿勢をとって、穏やかな気分となって、寝る場所がいる。人間の感覚を緊張させる要素をひとつづつ取り去り、弛緩に導いていく。床は柔らかく、視界はほの暗く、光はいろんなところにあり、いろんなところに回りこむ。しだいに空間が中心を失って雲散霧消していくところを、かろうじてテーブルが引き止める。


 設計はやはりコストに条件づけられている。人間の感覚に働きかけるには、柔らかさと色と光を調整することである。部屋のうち唯一触れる部分は床であるので、このほとんどに柔らかいマットレスとラグを敷きこむ。大面積の色は壁のクロスとラグで調整し、これにグレアのない複数の灯具からの光を投げかける。しめて4.8万円。かくして感覚を根拠とした生活のための場所となる。