滝山のカルチュア・センター

 西東京に滝山という地域がある。古くは雑木林が広がり集落が営農していた地域だが、1968年に3180戸の滝山団地が完成し、一転ベッドタウンとなった。当初は幅10mの遊歩道による歩車分離設計により都市計画学会賞を受けるなど、画期的な都市住宅として輝かしい存在であったが(当時の団地の様子は原武史の「滝山コミューン一九七四」に詳しい)、他の団地同様に当時の住宅取得層の高齢化が著しくなった。この団地に相対して「みどりや菓子店」が立地していた。この並びは団地が華やかだった時代に商店街となっていたが、団地の疲弊と幹線道路沿いの郊外店舗の立地により商店街は衰え、「みどりや菓子店」は営業を終え、近隣書店の倉庫として使われるとともに、ひっそりと地産野菜の販売をしていた。そうした時期に、私達は滝山在住の旧友に連れられて「みどりや」を訪れた。

 今は知る由もない往年の賑わいを失い、廃墟少し手前の様相をした店舗は寂しく感じられた。しかし店舗の空間的骨格や、ここを往来する人々や、地域の農業のネットワークは魅力的な設計資源に思えた。店舗建物は約70㎡の平屋で敷地の半分だけを占めており、残りの敷地には建物と同じぐらい大きな屋根が張り出している。店舗の二面はガラス張りで、一方はバス通りを挟んで団地の並木を望み、もう一方は団地から延長して住宅地を抜ける緑道に面する。5mほど先には団地のためのバス停があって10分おきに乗降客が往来するし、中央通りを通る人はかなりの確率でみどりや屋根下の自販機でジュースを買っていく。滝山周辺からは(量は少ないが)地産の新鮮な野菜や、特産の柳久保小麦うどんや青果を使ったジャムなどが届く。この店舗の空間的骨格に、往来する人々やモノが生きる場所を構築できないか。旧友はこの店舗のオーナーなのだが、オーダーは「地産野菜を売る場所」「イベントのための貸しスペース」にしてほしいとのことだったが、そのオーダー以上の物事を巻き込むことができる潜在的な可能性があった。

 計画をするにあたり、店舗の改装の予算はさしあたり確保できず、また工事業者に発注せず、細々と家具を自作していく予定だという。だがそれでは長年堆積した陰湿な雰囲気は払拭できない。団地の街ができてから50年来の歴史は重いのである。私達は思い切って、約120㎡にわたる店舗内外をDIYで改装する計画を提案した。ただし坪0.75万円・総額30万円で、である。店舗新築で坪90万、店舗改装で坪20万が相場であるから、新築の約1/100、通常改装の約1/30の費用で空間を変えることを願い出たことになる。さらに、施工は時間をかけてもいいものの、少しづつ作りながらイベントや販売の規模を広げていきたいというリクエストもあった。

 DIY、極小の予算、漸進的施工という条件から、次の計画を提案した。まず資材量を最小に抑えるために、既存躯体に対してか弱い仕上げと什器を緊結することとする。資材は素人が入手できるなかで最も安価な30×40mmの小断面製材(タルキ)とする。松か杉のタルキは1mあたり100円しかしない。またタルキは単体では強度が小さいばかりか曲がりが激しい。3mあたり30mmも曲がっているものもあるし、死に節も多い。そこでタルキを複数本束ねたり並べたりして、総体として強度をもたせ、相互に曲がりを抑えあって平均化することで精度を高めることとした。タルキの接点間距離は原則600~900mm程度とし、軸力による座屈、面外荷重による曲げ、積載荷重による曲げに耐える寸法としている。格子状に組んだタルキはやや剛な交点を作ることでフィーレンデール的に働かせ、二本柱の棚は棚板による接点の拘束で座屈長が小さくするなど、小断面材を束ねることによる力学的長所を活かした。このように、施工条件に起因する小断面材の徹底した使用により、空間全体に一律の雰囲気が行き渡ることになる。

 タルキを徹底使用する工法で1年間にわたる計画・施工・使用を繰り返し、角に面する2面のガラス面には格子スクリーンを設け、視線の行き交う内外の境界に品物や植物をレイアウトする。格子スクリーン越しの対向壁はタルキルーバー壁として、街路への存在感を示す。うち一面にはタルキ二本柱の展示棚を設け、他一面は木地を透かせたペンキの薄塗りを施し、展示壁に仕立てた。既存躯体中央にはタルキ格子とワイヤ製カーテンレールのパーテションを設け、イベントや会議室利用時の間仕切りとする。また内部外部ともに什器をタルキで制作した。内部にはタルキルーバーの机と商品陳列台を置き、外部には8m長のパブリックベンチ、野菜の無人販売台、モニュメンタルな自販機カバー、地域のグリーンインフラと連担し人の気配を見せるプランターを置いた。既存のガラスは空調・セキュリティ上の境界であるものの、内外構わずタルキが横溢し街に現れることで、インテリアが街の部分であり、街並みが店舗の部分であるような状況が生まれる。

 1年間にわたる計画・施工は、いつ始まっていつ終わったのか、きわめて不明瞭だった。施工は小規模にゆっくり行われたため、みどりやの営業が止まったり、お客さんの使用を拒んだことは一度もない。竣工を待たずして行われたことは次の通り。書店と連携したブックカフェ、高齢者のための塗り絵教室、2回の写真展、書画展示、ミモザリースの飾り付け、陶器金継ぎの実物展示、書店の経営会議、近所産果実のジャムとクッキーの製造販売、柳久保うどんの販売、観葉植物の繁殖、ナスの栽培、近所産のブルーベリー・タケノコ・トウガラシ・ナス・ゴーヤ・カボチャの販売とおすすめ料理のレクチャー、おばあさんの待ち合わせ、バス待ちでの腰掛け、信号待ちでの腰掛け、小学生のクワガタ自慢、夕立の雨やどり、酷暑日にジュースを買っての小休止、地域障害者のための相談カフェ、多摩在住作家のおもちゃ販売、子供のためのおもちゃ制作ワークショップ。現実を受け止める寛容な空間はできた。地域に生きる人々や物事に使い尽くされれ、いつしかありふれた滝山の部分になればいいと思う。